AEMの風景-4

追悼ブログ『コピーは日常に存在する』

2020.05.29

去る令和2年5月17日(日)未明、
弊社クリエイティブグループ、コピーライター兼ディレクターの、
常駐シニア委託社員【練合啓輔】が、
享年59歳で逝去いたしました。
ここに謹んで哀悼の意を表し、心中よりご冥福をお祈り申し上げます。

仕事上、何事にも前向きに、決して泣き言を言わず、
辛いであろう闘病生活にもかかわらず、一切その病状をも我々に感じさせず、
毎日元気に出勤、客先への取材・ヒアリング、撮影立会い…
そして本業のコピーライティング。
弊社年間アワード作品にも、数々の代表的作品を、コピーとディレクションで、
しっかり支えてくれました。

なんと、つい1ヶ月ほど前まで、
社員とも積極的にコミュニケーションしていた姿、
さらに今年1月には深夜まで一緒にお酒を飲み、
仕事のこと、世の中のこと、一緒に語らいました。
よもやこんなに早く、このように辛い結果になるとは、
誰も想像だにできなかったでしょう。

そしてこの度、彼の遺作とも言える、未公開のエッセーブログを、
ここに追悼作品として公開することとしました。

一切手を入れず、イメージカットも彼の指定通り、
彼の意のまま、ありのままの構成でお届けします。

以下ブログ本文です。


 

コピーライター養成講座で出題された課題、
「女性をナンパするコピーを考えよ」を巡る考察

 

その昔、コピーライター養成講座という教育講座に通っていた時期がありました。
講座では毎週、課題が出され、翌週に提出。その場で優秀作品が選ばれるというスタイルでした。
そのとき、出題された課題の一つが上記のテーマだったというわけです。

実際には、
時代背景の違いや声をかける女性との関係性などで変わってくる部分もあると思いますが、
そこは目をつぶって課題の本質に注視していただけると幸いです。
さて、女性をナンパするコピーのお題をもらって、あなたならどんな言葉を投げかけるでしょうか。
まったく知らない人か、面識くらいはある人か、よく知っている人か、
会社の同僚、取引先の女性などなど、
関係性で変わってくるのですが、そこは一切無視。普遍的な課題として考えてみてほしいものです。
課題提出のその日、
講師の先生から「これはいいね」とお墨付きをもらったコピーがありました
(残念ながら私の作品ではありません)。以下に記します。

「きれいな髪ですね」

私はそのとき、たしかに「これは、いい」と思ったのを覚えています。
それでは、このコピーのどんなところがよかったのでしょうか。
講師の先生曰く、「パーツをほめているところがいい」。
これがもし、「きれいですね」とう漠然とした誉め言葉だったとしたら、
(この人、私のカラダが目的なのでは?)下心が見透かされている感じになったのではないで
しょうか。パーツだからこそリアリティが生まれたと言えます。
もちろん、パーツであればなんでもいいというわけではありません。
胸、お尻、脚などセクシュアリティの連想につながるものは、逆効果になってしまいます。
そう考えると、誉めていいパーツというのはそう多くはありません。
「よくぞ、“髪”を選びけり」といったところでしょうか。
企業が発信する会社案内などの媒体においては、自社に有利な情報発信をするのが通常です。
それが、「本来の強み」を投げかけているのか、
または聞こえのいい一般的なことを述べているに過ぎないのかは、
評価が分かれるポイントとなります。

「訴求点が確実に伝わるためには、“リアリティの醸成”が不可欠」
という法則を今一度見直してみてはいかがでしょうか。

というわけで、「きれいな髪ですね」というコピーは、
なんてことないようで実は説得力を持つ高度なコピーなのですが、
この話にはまだ続きがあります。講師の先生曰く、
「同一コンセプトでこれを超えるもっといいコピーがある」というではありませんか。
読者の皆さんは、「きれいな髪ですね」を上回るコピー、何か思いつきますか?

「どこの美容室行ってるの?」

これが、「きれいな髪~」を上回るコピーだというのです。
「え?どこが?」と思われた方も多いことと思います。
講師の先生に代わり、私が解説することにしましょう
(本来、コピーを解説することほど野暮なことはないのですが…)。
まず、「どこの美容室行ってるの?」と聞かれたら、
聞かれた女性はこう答えるのではないでしょうか。
「え?どうしてですか?」。
そのとき、あなたはすかさずこう聞き返すでしょう。
「いや~、きれいな髪だなあと思って」自分が言いたいことを相手に質問させている。
これこそが、このコピーの一枚上手なところなのです。
「髪を誉めること」を自らアピールするのと、相手との会話の流れで自然と発言するのでは、
「下心あり度」が異なってきます。
もちろん、会話の流れからの発言の方が、
圧倒的に自然で下心を全く感じさせないレベルと言えるでしょう。
会話は言葉のキャッチボールとも言われますが、
自分が投げやすいところにボールを返してもらうのも、
コピー・テクニックの一つなのです。

会社案内などの紙媒体は双方向のコミュニケ―ションではないのですが、
企業としてアピールしたいポイントをいきなり発信するのではなく、
そこに至る前段階を充実させることも重要な要素です。

コピーを書ける必要はないとしても、コピーをチェックしたり、
全体の構成を考える上で、このような意識を持つことは重要です。
またそうした視点で物事を考えることが、
クリエイティブをいっそう面白く
させることにつながると考えています。